突如、青木真也から持ち込まれたインタビュー企画。12月31日(月)に行われる『Cygames presents RIZIN 平成最後のやれんのか!』に向けて、その思いを特別公開!
大晦日の『Cygames presents RIZIN.14』開催前の午前中に行われる『Cygames presents RIZIN 平成最後のやれんのか!』。急きょ開催が決定した大会だが、やはり注目されるのは、川尻達也×北岡悟戦だろう。
これまでの両者の道のりを観続けて来た人間には、よりその重さが伝わって来るマッチメイクだが、実はこのカードが正式に発表されると、両者にとって因縁浅からぬ男が動いた。“バカサバイバー”青木真也である。現在、青木は『ONE』を主戦場に闘っているが、振り返れば2015年12月29日の『RIZIN』旗揚げ戦のメインを務めた男。
最近は『RIZIN』との接点がなかったものの、川尻×北岡戦が実現されると聞き、どうしても協力させてほしいと申し出て来たのである。いったい何を語るのか!?(聞き手◉“Show”大谷泰顕)
川尻×北岡戦は「品格」がないと読み取れない
――今回は『平成最後のやれんのか!』で行われる川尻達也×北岡悟戦に関して、是非とも話をさせてほしいとのこと。
青木 今回、川尻×北岡戦っていう世界観が実現するわけですけど、なんていうのかな。『DREAM』やその前に(2007年大晦日に)あった『やれんのか!』に関わった全員が清算できていないんじゃないかって思ったんですよ。
――となると、『平成最後のやれんのか!』のテーマはかつての『やれんのか!』の清算に当たると?
青木 清算というより総括っていうか。とくに川尻と北岡を語って、炊いてあげられるのは僕だけだと思うので。
――過去の経緯を考えたらそうだと思います。
青木 それは思うんだよなあ。だから俺がやらなきゃ、俺しかできないだろう感は凄くあったので、そこに関しては協力させてほしいと思ったんですよね。
――ええ。
青木 要はあの時に一緒の船に乗っていたみんなが結局、散り散りになっちゃったから、それぞれに対しての思いはあるわけですよ。だからそこに至る気持ちを話したいなって思ったんです。ただ、言いたいこといっぱいあるけど、川尻×北岡戦に関しては、究極的なことを言わせてもらうと、「お前ら何をやっているんだよ!」に尽きるんですよね。
――それは最高の褒め言葉かもしれませんね。
青木 だって、やっぱりやらなくていいんじゃないの?っていう気持ちは未だにありますからね。
――今もですか?
青木 だって言い方は悪いけど、凄く下品だと思いますよね。
――下品?
青木 僕は『やれんのか!』っていうものに対して、特に「矜持が」とか「誇りが」みたいなのはないですけど、その裏側で、読み取る側に「品」とか「格」とか「品格」がないと読み取れない感覚はありますよね。
――歴史を知らないと伝わらない部分はあると思いますね。ちなみに“バカサバイバー”は『Abema TV』のサイト上で、川尻×北岡戦のことを「最上級にツラいけど、最高に見てみたい」と書いていたじゃないですか。
青木 だからツラいですよ。でも、というかだからこそ、本当にこの二人や格闘技の歴史を知っている人の中で試合をして欲しいって、思うわけですよ。
――そういう意味では『平成最後のやれんのか!』に集結する人は、どコアなファンだと思いますし、明らかに川尻×北岡戦を目当てに来る方が圧倒的に多いはずです。
青木 要は文脈を知っている人ですよね。脈を持っている人。ただ、二人ともねえ、ハズレくじを引いた人間だからね。
仲間意識
――それは時代的に、ってことですよね?
青木 というか、川尻は『UFC』で最後までやりきったほうがよかったと思うし、北岡だってもっと金をもらう生き方はいっぱいあっただろうし。そういうところで、二人ともバカだから愛しちゃうみたいなのはありますよねえ。
――もっと上手く立ち回れよと。
青木 だから「お前ら何やってんだよ!」と思うわけ。
――はじめに川尻×北岡戦の話を聞いた時の第一印象はどう思ったんですか?
青木 僕はやらないほうがいいと思っていましたけど、結局、北岡悟に関しては正論というか客観性を持てていないんですよね。
――どういうことですか?
青木 要は今回も大晦日の試合の話が聞こえてきた時に、「(10月28日に北岡がかなり打撃をもらった試合をしているから)ダメージのことを考えると普通だったらやらないほうがいいよね」って言ったんですけど、その1週間後に「大晦日に試合をするのであれば全力でサポートしたいし、一緒に練習しよう」って言ってしまう関係なんですよね。
――正論を通せない関係があると。
青木 どうしても「北岡だから許す」って思ってしまうし、そう言ってしまう。彼がやることはすべて認めるので、正しい評価ができないんです。でも、本当はそれじゃダメなんですよね。だけど彼は試合に負けようが(商品価値は)死なないと思うんですよね。
――というと?
青木 だって彼がいなければ生きていない人たちが実は凄くたくさんいて。それは僕もそうだから。彼を助けたいっていう気持ちってみんな持っていると思うんですよ。
――関係した方共通の思いなんですね。
青木 だから北岡に関しては、彼が負けようが勝とうが、飯が食えなくなる心配は一切していない。絶対に彼を助けたいと思っている人はいっぱいいると思っているから。そういう性善説に基づいているから。
――川尻達也に対しては?
青木 まず言っておくと、面白いことに俺と川尻が仲悪いと思っているヤツがいっぱいいるんですよね(笑)。
――日頃のSNS上の言動からはそう思われてしまうかもしれませんね。
青木 だけど俺にはそんな気はまったくなくて。
――おそらく、青木、川尻、北岡の関係性は、もう二元論で語れる範囲を超えていますけどね。
青木 だから僕は悪いとは思っていなくて。要は「愛」を持ってディスっているから(笑)。それにやっぱり仲間意識はありますよ。ずーっと頑張ってきたし、一緒の時間を過ごしてきたので気になる存在ではありますよね。だけど、バカじゃん(笑)。言葉足らずだし。
――ワザと言っていますね、それ(笑)。
青木 (無視して)彼はヒールターンを嫌うでしょ。ずーっとベビーフェイスでいたい人だし。だから僕とは考え方の部分では一切合わないけど、それでも同じ期間を過ごしてきているから、共有しているものが何かありますよね。
「白黒」で見るか「物語」で観るか
――ちなみに“バカサバイバー”に、もしそういう試合のオファーがあったらどうしますか?
青木 僕はまったくなんとも思わない。すべて仕事だから。その点の格闘技観は(北岡と)凄く近くて、仕事だからやる。実際、(2011年大晦日にあった)北岡戦もそうだったし。だから川尻のほうがアスリート色が強いよね。要は、「白黒」で見る人じゃない。北岡のほうが「物語」で観られる。なんだろうな。でも川尻は愚直すぎて。ひたすら愚直だからこその“芸”じゃん。それはもう彼の“芸”なんですよ。ただ、川尻が良くない時って、その自分の本来持っている“芸”を崩した時なんですよね。要は、自分がしょっぱい試合で勝つっていう“芸”を照れちゃって、観客の前で覆すわけ。
――カッコよく勝ちたいと。
青木 そう。だから負けるんですよ。だからこそ川尻は“芸”を崩さずにぶつけてほしい。川尻っていうものを。北岡はそれを思い切り迎え撃つだろうし。(川尻が)クロン・グレイシーに負けた時(2016年大晦日)って俺はそれが凄くツラかったの。
――ツラかった?
青木 そう。だから何やってんの?面白いことをしようとしたら川尻じゃねえんだよって。
――色気を出すなと?
青木 そう。川尻がマイクで調子に乗った時って、ことごとく負けるでしょう。だから、そんなのは川尻じゃねえんだよって思ったけどね、俺は。だってしょっぱいから川尻なんだよ。いや、この「しょっぱい」って褒め言葉だからね!
――その思いはわかります。
青木 愚直なことをずーっとやり続けるからこそ、それが昇華して“芸”になったわけだから。そんな選手、他にいないんだから! 川尻はそこが凄いんだから。
――“バカサバイバー”は「川尻×北岡戦は、勝負論だけを見るような貧しい見方はしたくない」と言っていましたね。
青木 勝ち負けでしかないからこそ、この試合を勝ち負けだけで見るなよっていう意味です。当然、二人の闘技者は勝ち負けに執着して、そこに徹底的にこだわるから勝ち負けを超えるわけで。本当は『RIZIN』を観た時に、最高の味付けができるのは社長(※『DREAM』の社長だった笹原広報)たちだと思う。(紹介Vを作っている)佐藤大輔も含め。佐藤大輔的な味の濃さが一番効くのはそれこそ川尻×北岡戦だと思うから。そこは期待したいですよね。あの世界観が一番発揮できるのはそこなんじゃないかな。
――期待したいですね。
青木 それと言いたいのは、最近は結婚にしろ、家庭にしろ、会社にしろ、国にしてもそうだし、いろんなカタチがあるんだろうけど、みんながみんな「つながりってなんなの?」っていうところに悩んでいると思うんですよ。
――そうかもしれません。
青木 そこで結局、僕が思ったのは、かつて『DREAM』や『やれんのか!』っていうドメスティックな格闘技を経験させてもらったみんなが「俺たちはファミリーだよね」って思える。それだけでいいと思ったの。なんかつながっているっていう。だからファミリーの誰かが試合するんだったら助けなきゃってそこに来る、みたいな。そういうものなんじゃないかと思っていて。だからこそ、(川尻×北岡戦を)やるんだったらみんな関わるべきだと思ってたんですよね。
――ちなみに川尻×北岡戦をどこで観る予定なんですか?
青木 いや、試合があるんですよ。
――え?
青木 その日はアイスリボンで試合があって。
――みんなそれぞれ生きているんですね。
青木 だから散々ここまでエモく語っておいて、最後は「僕は後楽園なので行けません」になっちゃいますけど(笑)。だけどそんな俺からは、やっぱり「お前ら何をやっているんだよ!」って言葉を送りたいですね。
(2018年12月20日、RIZINFF事務所にて収録)