このコーナーでは、RIZIN出場選手や関係者の方々に、今まで観た試合・参戦した試合でいちばんの転機となったものを一つ選び、それにまつわるエピソードを語っていただきます。

—桜庭和志
12月29日のスペシャルワンマッチで青木真也と対戦することになった桜庭和志。プロレスラーとして活躍していた桜庭がPRIDEのリングに上がったのは1998年のこと。印象に残る試合として、桜庭はPRIDEデビューしてからの約一年間の試合を挙げた。ヴァーノン・タイガー・ホワイト戦(PRIDE.2 1998年3月15日)、カーロス・ニュートン戦(PRIDE.3 1998年6月24日)、アラン・ゴエス戦(PRIDE.4 1998年10月11日)、ビクトー・ベウフォート戦(PRIDE.5 1999年4月29日)、エベンゼール・フォンテス・ブラガ戦(PRIDE.6 1999年7月4日)の5試合である。

「どれか1試合が転機になったということはないんですけど、自分の中ではPRIDEに出場し始めてからの一年ちょっとの間でいろんなものが変わっていったという感覚があります。タイガーマスクに憧れていた自分を改めて思い出したのもこの頃。ファイターとしての幅が広がった時期だったと思います」

—ヒクソン・グレイシー
ヒクソン・グレイシーが転機となった試合に選んだのは、彼が19歳の時に経験したレイ・ズールとの一戦。ヒクソンにとって初めてのMMAの試合だった。当時ヒクソンは74キロで、まったく経験がない。相手は98キロもあり、120戦無敗だった。

「1ラウンド目が終わったとき、私は父に言ったんです。もう疲れた、終わりにしたいと。でも父は、まだ大丈夫だ、相手も疲れているんだからと私を励ましました。でも、そんなのは耳に入ってこない。本当に疲れてできないんだと伝えたけれど、父は大丈夫だと言ってゴングが鳴った瞬間に私をリングに押し戻した。2ラウンド目、3分弱で相手からタップを奪うことができました。そこで私は気づいたのです。自分のいちばんの敵は、自分の思考であると。“できない”と命令を下した自分の脳に、私は屈していた。

自ら作り出した恐怖に支配されていたのです。その時に父がセコンドにいてくれて、本当に感謝しています。リングに私を押し戻し、『続けなさい』と言ってくれた父がいなければ、それを学ぶことはなかった。それ以降、自分の思考がコントロールできるようになり、恐怖に支配されることは一度もありませんでした」